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Spirit Bear: The Simon Jackson Story (TV)
    聖なる白熊/サイモン・ジャクソン・ストーリー

カナダ映画 (2005)

マーク・レンドール(Mark Rendall)の子役時代最後の主演映画。1995年、13歳でSBYC(聖なる熊若者連合)を設立して「聖なる熊」あるいは「コモーディ熊」の生態環境を救おうとする運動を始めたサイモン・ジャクソンの実話の映画化。カナダのブリティッシュ・コロンビア州には地球上の温帯雨林の約25%を占める広大な森林が広がっているが、州内のプリンセスロイヤル島(面積2251平方キロ、沖縄の1.8倍!)には、アメリカ黒熊の「二重劣性遺伝子をもつ亜種」の白い熊が生息している。白い熊というと北極熊を思い浮かべるが、「聖なる熊」は白い黒熊。しかし、突然変異としての白変種(白子)ではなく、特異な固有種なのだ。地元の大手製材会社に森林伐採の許可が下りたため、この特異な熊の生態環境が危機に瀕する。それに敢然と立ち向かったのが、僅か13歳のサイモン・ジャクソンだった。サイモン役のマーク・レンドールは、グレード10~11(日本でいえば高校1年に相当)の中学生として登場するが、実際のサイモンはグレード8。この年代で この差は大きい(できることと、できないことにかなりの違いがある)。従って、映画化にあたりかなりの脚色があったものと推測される。サイモン・ジャクソンは今では35歳、今でも環境保護に積極的に取り組んでいるようだが、どこを捜しても、13歳でどのようにSBYCを立ち上げたかについて触れたものはなかった。マーク・レンドールの行動は、13歳ではとても実行不可能なものばかりなので、ひょっとしたらほとんどが創作なのかもしれない。映画の最後に、サイモン・ジャクソンがTIME誌の表紙になる場面もあるが、1994-2000まですべてチェックしたが、そうした事実はない。こんな重要な場面すら「捏造」とあっては、もはや「実話の映画化」とは言い難い。むしろ、白熊の保護に必死になって努力する少年のひたむきな姿を追った「作品」として観る方がいいであろう。マーク・レンドールは、どの出演作でも誠実で心の優しい姿が持ち味になっているが、この映画では、役柄上、特に「勇気」「不屈」「すがすがしさ」「誠実さ」「優しさ」が混じった素敵な人間像を作り上げている。なお、題名のみ「聖なる白熊」と「白」を入れたのは、その方が分かりやすいと思ったから。さらに、原題に近い「スピリット・ベア」にしなかったのは、日本語で「スピリット」というと「精霊」という意味を感じさせないため。

サイモン・ジャクソンは、夏休みに両親とプリンセスロイヤル島でキャンプをした時、たまたま1人で森の中を歩いていて黒熊に襲われそうになり、白い熊に命を救われた。キャンプに戻る途中、偶然、「温帯雨林保護協会」のロイド・ブラックバーン博士に会い、大規模な森林伐採の現場を見てショックを受ける。そこで、サイモンは、いろいろと調べ、地元の新聞に「森林伐採によって聖なる熊の生態が脅かされている」旨を投書する。学期が始まって最初のクラス。サイモンだけ座る席がない。カナダでは授業が選択制なので、自分の選んだ科目の教室に行って、そこで席がないこともあり得る。名前を訊かれて告げると、先生は新聞に掲載された記事を取り出して、他の生徒に見せる。それに興味をもつ生徒と、地元の主産業への冒涜だと反発する生徒がいる。中でマーカスという女生徒が、自主的に手助けをしてくれる。サイモンの最初の行動は、イギリス王室のウィリアム王子のバンクーバー訪問時に、記者に成りすまして接近し、聖なる熊についての資料を渡したこと。地元メディアでは、一躍「熊少年」として大きく取り扱われ、州の環境局には子供たちから賛同の手紙が山ほど届く。それまでサイモンを無視していた州最大の製材会社の社長は、サイモンのいる西バンクーバー中学で、1対1の公開討論会に出ることになったが、それは、早目にトラブルの芽を摘み取るる作戦でしかなかった。一敗地にまみれたサイモンは、マーカスと話すうち、プリンセスロイヤル島の白い熊が、「遺伝子的に特異」な存在だと主張すれば、伐採をやめさせられるのではないかと考えつく。さっそく、この主張をラジオの視聴者番組で州の環境局長にぶつける。しかし、証拠がない主張など、環境局長や製材会社の社長は相手にしない。そこで、サイモンは、ブラックバーン博士の助けを借りて再度島に行き、白い熊の唾液を採取する。しかし、島の木には、以前にも増して「伐採対象木」のテープが縛り付けてあった。サイモンは、一部を剥がして持ち帰り、TVで会社を非難し、製品のボイコットを訴える。こうして運動が広がって行くと、サイモンに対する風当たりも強くなり、車の運転中に意図的に煽られ、松葉杖が必要なケガを負わされる。転機となったのは、マーカスが人気のロック・バンド「ザ・トゥルーズ」に事情を訴えた手紙を送ったこと。この結果、「ザ・トゥルーズ」の公演の終了後、サイモンは舞台に呼ばれ、「我々が 一丸となれば、聖なる熊を救える」「もう、後がない!」と訴える。この「後がない!」は若者の間のスローガンとなり、環境局長も重い腰を上げ、製材会社の社長やサイモンを加えた会議を招集した。しかし、その会議は、最初から「伐採許可の結論ありき」の演出でしかなかった。その記者会見の場に、サイモンがブラックバーン博士を経由して州一番の遺伝子工学者に依頼してあった分析結果が届く。こうして白い熊の特異性が立証されたことで、一転、島の森林伐採が禁止されることになった。最後に、この作品にも字幕はない。ところどころ英語が聴き取れない部分もあり、訳が間違っていたらご容赦願いたい。

マーク・レンドールは取り立てて可愛くはないが、これほど誠実そうな少年も少ない。アメリカの子役ではないので、出演映画の半分に字幕がなく、紹介できないのが残念だ。マークは、成人後も現在に至るまで俳優を続けているが、残念ながら脇役どまりで主役級ではない。『たった一人のあなたのために』(2009)でも、レネー・ゼルウィガーの母親に連れられて車で旅をする2人息子のうちの1人を演じているが、その気弱な感じが印象に残る。こうした路線は、『チャーリー・バートレットの男子トイレ相談室』(2007)から始まったものだが、マークにとって「気弱路線」は大きな間違いだったと思っている。


あらすじ

サイモンが森の中を歩いていると、足を滑らせ谷に落ちてしまう。幸いケガはなかったが、1頭の黒熊が唸りながら近付いてくる。岩場に追い詰められてどうしようもなくなった時、1頭の白い熊が現れ(こちらの方が大きい)、黒熊を追い払ってくれた(1枚目の写真)。その後、白い熊は穏やかな態度でサイモンのすぐそばまで寄ってくる(2枚目の写真)。熊を見る嬉しそうなサイモン(3枚目の写真)。
  
  
  

その後、雨が降り出し、サイモンが森の中をキャンプに戻ろうと歩いていると、1人のアラスカ・インディアン系の男性と出会う(1枚目の写真)。サイモンは、さっそく、「ねえ、僕… さっき熊を見たよ」と話しかける。「よかったな」。「普通のじゃない、白いんだ。北極熊じゃなくて。聞いたことある?」。「白熊だと?」。「そうだよ、白い熊」。「違うな。聖なる熊は、この辺りにはいない」。「聖なる熊?」。「間違いだ」。「ほんとだよ」。「そうか。どこで?」。森の中を彷徨っていたので、どこかなんて言えない。「絶対、聖なる熊だよ」。「わずか300頭しかいない。大半がこの島の西海岸に生息している」。話していると、突然、前方の視界が開ける。辺り一面の木が伐採されているのだ(2枚目の写真、なぜが雨でなく快晴)。「ひどいもんだろ」。「森を、駐車場に変えてる」(3枚目の写真)。こんなの序の口だ。この辺りの森は すべて伐採される。これが、みんな家具になるんだ。熊の生息地なのに。奴らは、このまま続ける気だ」。男性は、温帯雨林保護協会のロイド・ブラックバーンと名乗る。もらった名刺を見ながら、サイモンは、「保護するのが仕事なのに、なぜ、放っとくの?」と素直に質問をぶつける。「何が、言いたい?」。「誰かが、政府に文句を言わないと」。「やったらどうだ? 一生かかるぞ」。
  
  
  

夏休みが終わり、サイモンが選んだのはスター先生のクラス。1つの席を素敵な女の子と譲り合っているうちにサイモンの座る場所がなくなってしまう。1人立っているサイモンを見て、「何やってるの?」と先生に訊かれる(1枚目の写真)。見れば分かる。すぐに、「まあ、席が足りないの? 驚きね」と言うと、教壇の自分のイスを滑らせて持ってくる。そして、名前を訊く。サイモンが名乗ると、「そりゃまた… まさに、驚き桃の木ね〔In fact, what do you know〕?。ブリティッシュ・コロンビア州知事クン〔Mr. Premier British Columbia〕 …なんちゃって〔Oh...  Bastard〕!」。すごく面白い先生だ。「でも、みんなの前で、自分から言いたくない。知ってる人?」。返事がない。「みんな、どうしたの? 私は、君たちの年頃で、アメリカとの軍事同盟に抗議してた」。その言葉を聞いて、席を譲った女の子が「南北戦争よね?」と囁き、サイモンも笑ってしまう。「世界を変えようとすれば、知識と構想力が必要なの。君たちの一人が、変えようと決意した」。そう言うと、教壇の上に置いてあった新聞を取り上げて読み始める。「編集者様。僕は15歳で、西バンクーバー中学の10年生です。この夏休み、両親とキャンプした時、僕は、幸運にも白熊と出会えました」(2枚目の写真)「海岸沿いの段丘でした。この熊は、聖なる熊とも 呼ばれています。でも、製材会社の大量伐採によって生存が脅かされています」。ここまで読むと、先生は新聞の写真を生徒に見せて、「素晴らしい写真ね。可愛くない?」。いつもカメラを持ち歩いているサイモンが撮った写真だ。「どうか、この素晴らしい動物を救って下さい。後は、環境局は… って続いて… 敬具。サイモン・ジャクソン」。生徒たちが一斉にサイモンを見る。「ジャクソン君、立ってもらえる? で、サイモン、投書の動機は?」。「あの… 何か しなくてはと…」。「何かを?」。「聖なる熊を救うこと」。「訊きたいんだけど… 私、昔、白変種の熊を見たことあるんだけど」。「白変種じゃありません。聖なる熊と呼ばれてます。発見者の名をとってコモーデイ熊とも。100年くらい前の科学者です。全体でも、生息数は数百頭で海岸線沿いに棲んでいます」(3枚目の写真)。「君の手紙によれば、熊が危ない?」。「製材会社が、生息環境を脅かしています」。それに対しえ、1人の男子生徒が「下らん」と吐き捨てるようにつぶやく。「意見を、言ったら?」。「おい、動物おたく。いいか、製材会社のお陰で紙が使える。この机もだぞ」。女生徒からは、「可愛いわ」とか「熊の住処なら いっぱいあるじゃない。人間の生活はどうなるの?」の声も。最初の生徒が「この州最大の会社だぞ」と言うと、「お金より大切なものがあるわ」とも反論、「300億ドルよ」と他の女生徒が再反論。先生は最後に、「とにかく、ジャクソン君の努力には脱帽するわ。ティーンエージャーが州政府に モノ申すのは、大変なことよ」。
  
  
  

サイモンが、廊下に、「聖なる熊について学ぼう」というボードを張っていると(1枚目の写真)、さっきの男子生徒が「くだらん」と言って通り過ぎる。嫌な奴だ。一方、席を譲った女の子は、サイモンのやっていることに、最初から興味を抱いている(それが、自分の継父の仕事と相反していても)。学校の暗室でサイモンが写真を現像していると、突然ドアを開けて女の子が入って来る。お陰で写真は真っ黒に。「マーカスよ、スターのクラスの」。「何の用?」。マーカスは、「両方とも、使えるかと…」と言って、ポスター用具をどすんと置くと、「ほんとに、熊が心配なの?」と訊く(2枚目の写真)。「ああ」。「悲しいな… 儲けのために」。「そうだろ」。「私が、助けたげる。あんた、どうしてA1用紙を板に張ってるの?」。「いいかい、君の助けは要らない」。「そう? いろんなポスター作りを手伝おうと思ってた。勝手にやるのね、ジャクソン。追い払われてあげる」。
  
  

サイモンは、新聞でイギリスの王室がこの町にやって来ることを知る。そこで考えたのは、次の一手として、聖なる熊の資料をウィリアム王子に渡すこと。それには1人ではやりにくいのでマーカスに電話をかける〔マーカスの自宅の電話番号をどうして知ったのかは謎〕。公衆電話の前で待っていたサイモンの前に、「ジャクソン。もう降参?」と言って、マーカスが現れる。「君の勝ち。持っててくれる?」と言ってマーカスに資料を渡すと、マーカスは眼鏡をかけ、偽の「記者身分証」を胸にぶら下げる(1枚目の写真)。サイモンは偽のマイクを手にすると、記者を掻き分け王子の前に出て、持ってきた資料を渡し(2枚目の写真)、説明して握手する。粒度は粗いが、王子の映像と上手に合成されている。王子とプリンス・オブ・ウェールズが去った後、サイモンはマスコミの取材を一気に受ける(3枚目の写真)。「僕が言ったのは、聖なる熊が この州にしかいないことと、偉ぶった企業による皆伐(clear-cutting)で生息地が 危機に瀕していることです」。マスコミの質問は、「あなたの意見に対する、王子の反応は?」「どこで、聖なる熊を見たんですか?」「何歳ですか?」。マーカスは、その姿を嬉しそうに見ている。
  
  
  

サイモンの行動は、翌日の新聞の第1面に「王子と熊少年」という見出しで大きく報じられた(1枚目の写真)。新聞からパンしてサイモンの部屋が映る。ドアには、サイモンの好きなカナダのロック・グループ「ザ・トゥルーズ」のポスターが貼ってある。サイモンは、州最大の製材会社に電話をかけている。「フランク・パデュー氏は みえますか?」「いつ頃 終わるか、分かります?」「サイモン・ジャクソンから 電話があったと伝えて下さい。聖なる熊のことで」「ええ、前にも 何度も電話を」「ありがとう。どうも」。その姿を父がじっと見ている(2枚目の写真)。一方、州の環境局のサハラ・サブニス環境局長のところには、子供たちから来た抗議の手紙の袋が地区ごとに分けてぎっしり置かれている。秘書が、「これ以外にも、郵便室に入らないくらいあります」と報告する(3枚目の写真、左側が局長)。局長は、聖なる熊には何の関心もない様子。「あの子は、失うものがないから 強敵」。秘書が「CLL(大陸製材)の伐採許可の件は、どうです?」と尋ねると、「そうね、選挙も近いし争点に… 私達のじゃない、パデューのよ」とまるで人ごと。環境局長にはあるまじき存在だ。この女性はミスキャスト。環境局長としての存在感がまるでない。
  
  
  

サイモンは校長室に呼ばれる。そこにいたのは、校長とスター先生。スター:「校長のホール先生は知ってるでしょ?」。校長:「サイモン、君の一発が効いたみたいだ」。「手紙がきたの」。「フランク・パデュー氏から」。「社長さんよ」。そこで、サイモンが「CLLの」と口をはさむ。「大陸製材社だ」。「州最大の企業体ですね」。そして、この学校でパデュー氏とサイモンの公開討論会が開かれることになったと教えられる。学校の宣伝にもなるので、校長しては大乗り気。そして、次の週、大講堂に生徒たち、TVも入って討論会が開催される。サイモンは、緊張状態でトイレに籠り、何度も練習している。そこで たまたま出会った社長は、「上がってる?」と訊き(1枚目の写真)、「楽しみだな」と親切そうだった。演壇に立ったサイモンは、聖なる熊の生態について詳しく述べるが(2枚目の写真)、途中で社長が「サイモン、どこで 聞いたんだね?」と遮る。「あの… インターネットで、調べました」。「インターネットか。君を批判したくないが、そんなものと、何百万ドルをかけた研究のどちらが信頼できるかね? わが社は、ちゃんと研究を行い お墨付きを得ている」。「御用学者でしょ」。「もし、環境に悪影響があれば、州政府が伐採許可を与えると思うかね?」。そして、追い討ちをかけるように、「サイモン、一つ訊きたい。プリンセスロイヤル島に行ったことは?」。「一度しか。でも…」。「私は、何度も行った。島のあちこちへね。信じて欲しい。いいか、黒熊、茶熊、白熊も、何代にもわたって島に棲み続けてきた。大陸製材社は環境に配慮してる。本気で。それが、我々のやり方だ。なぜ、危険を冒す?」。サイモンは、思わず、「あなたが? 配慮を? ツケを払わされるのは、僕らの世代なんだ」と言ってしまう。これに対し、社長は、「サイモン、そういう発言は、この州を支える会社に対しては慎重にすべきだ。4千5百万ドルの収益と、白変種の熊と どっちが大事だ? ただの毛皮獣を救うために、何千もの家族が路頭に迷ってもいいと言うのかね? いいか、経済は州の根幹だ。この点を、よく考えなさい」と半分叱られ、半分諭される始末。それに上塗りしたのは、「でも、一つ 申し上げておきたい。それは、彼の勇気です。若い人が、堂々と意見を述べる。どんな意見でも、立派だと思います。皆さん、ありがとう。楽しい会でした。ありがとう、サイモン」。サイモンの完敗だった。百戦錬磨の社長に手玉に取られただけで終わってしまう(3枚目の写真)
  
  
  

授業の長距離走の終点のバンクーバー湾沿いの公園で、サイモンとマーカスは話し合う。「私なら、攻められても、一歩も引かないわ。元気出して」。「君を、信じるよ」。「初心貫徹あるのみ。彼みたいな巨悪には、勇気と協力しかないわ。特に、チャンスはモノにしなくちゃ。今回は、手玉に 取られたけど」。「僕は、正論を言ったんだ」(1枚目の写真)。「正論ね… 彼は、やり手よ。少し卑怯だけど… やり手なの」。そして、「敵を 知らないと。大舞台へようこそ。経済問題よ」(2枚目の写真)「みんなに してみれば、製材会社と対立したくないのが本音」。「じゃあ、僕は どうしたらいい? 製材会社と、対立したくない風潮の中で」。なかなか 次の一手が見えてこない。
  
  

サイモンは、何とか打開策を見つけられないかと、ロイドと会うことにする。ところが博士はすごく後ろ向き。「君は、首尾よく パデューを怒らせた。だがな、現実は… これで、一件落着。もう終わりだ」。「なら、熊はどうなるの?」。「君に勝ち目はない。相手は何百万ドルの大企業だ。ロードアイランド(面積3140平方キロ)より大きな土地を持ってる」。「でも、これって、あなたの仕事でしょ?」。それに対する博士の返事は、「我々が5平方キロの森を救う毎に、100平方キロの森が伐採される。妥協の結果だ」(1枚目の写真)。その言葉にがっかりして席を立ったサイモン。もらった名刺を見て、「ロイド・ブラックバーン。PhD。世界的な生態学者。保全専門家」と言うと、「みせかけ(As if)」の言葉とともに、名刺を4つに破る。そして、「見たくないの? バークレイ谷が州立公園になることを」(2枚目の写真)。この言葉に動かされた博士は、カフェを出て、駐車した車の屋根に地図を広げ、第5地区について話し始める。「第5地区は、島のこのエリアだ。伐採許可が下りたら、次はここだ。大陸製材め、ここで奴らを止めないと「熊よさらば」 だ。奴らのやり方は、根こそぎ破壊する。森も、隠れ場も、餌場も。何も残らない」(3枚目の写真)。そして、やっと生態学者らしい言葉を吐く。「これだけは言っておこう。森が熊を守るんじゃない、熊が森を守るんだ〔It's not trees that are going to save the bear. It's bears that are going to save trees.〕」。
  
  
  

サイモンは、博士との会話をマーカスに話して聞かせる。そんな時、繁華街で風力発電を訴えかけグループを見て、「あんな風にやるべきだと、思うかい?」とマーカスに問い、「僕には、あんな馬力もお金もない。僕に、過大な期待しないでよ」と釘を刺すが、「人種が違うって?」と言われ、「種(species)」という言葉に引っかかる(1枚目の写真)。「『種』の違いか… 君って、すごいよ。別種(different species)だと、証明すればいいんだ。少なくとも、遺伝学的に特異(genetically unique)だと」。「遺伝学的に特異、そしたら保護できる。そして、科学的なレベルで環境も保護する」(2枚目の写真)。万策尽きた感のあったサイモンは、「この見方を公表しよう」とマーカスに宣言する。
  
  

地元のラジオ局(CJFK)の「リスナーからの電話質問に答える」という番組に、サブニス環境局長が出演することをつかんだサイモンは、さっそく電話をかける。相手がサイモンだと知って、天井を見上げる局長(1枚目の写真)。「サブニスさん。大陸製材が伐採予定のプリンセスロイヤル島の第5地区に、聖なる熊が何頭いるか知っていますか? あなたは、公僕のはずでしょ? ご存じですか? この熊が、遺伝学的に特異の存在だと… 白変種でも造化の戯れでもなく、遺伝学的に特異だと。あなたは、種を絶滅しようとしてる。代替のきかない動物を。それって楽しいことですか〔Are you comfortable that〕?」(2枚目の写真)。すごく もっともらしくて皮肉の効いた発言だが、問題は、「遺伝学的に特異」という証明がどこにもないこと。CLLのパデュー社長は多くのTV局から取材を受け、「私は、この若者の話にショックを受けました。彼の発言は、大陸製材に対する挑戦です。遺伝学的に特異… この熊が、そうである根拠は何もありません。証拠は? 知りたいですね。証拠なるものを」と、痛いところを的確に突いてくる。
  
  
  

翌日の新聞の一面の見出しは、「パデュー氏、伐採地の熊の『遺伝学的に特異』疑惑に反駁」というものだった。それを見た父から「証拠は、あるのか?」と訊かれ、口ごもるサイモン。その時、ロイドから電話が入る(1枚目の写真)。「度胸があるな。君に2文字進呈しよう。ファーガス・ダイオジェネス」。それは、州で一番有能な遺伝子工学者の名前だった。サイモンは、学校の端末室からスカイプでファーガスに頼み込む。「CLLが 伐採を許可されたら、熊は絶滅です」(2枚目の写真)。ところが、ファーガスはすごく突飛な人物。あまりの奇人ぶりに、一緒に見ていたマーカスが、「この人、遺伝子異常なの?」(3枚目の写真)。「DNAの研究者は 天才肌だから」。その後、ようやく博士はまともなことを口にする。「遺伝子の検体は持ってるんだろうね?」。当然、サイモンにはない。「それは難題だ。一歩も先へ進まんからな」。
  
  
  

サイモンとマーカスは、端末室から出ると、どうやって検体を手に入れるかについて話し合う。そして、ロイドに島まで飛行機を出してもらえないか頼むことを思いつく。結局、連れてってもらえることになり、サイモンは、「一緒に、来るかい?」とマーカスに訊く。「多分ね」。「いいぞ」。「何だか、とってもうまく行きそう」。「そばで見るのが待ち遠しいよ」。「このくらい、近く?」とマーカスが顔を寄せる。キスしてもおかしくない雰囲気だ(1枚目の写真)。その時、車のクラクションが鳴り、1台の車が寄ってきくる。「何だろ? 君かな?」。「そう、パパなの。継父だけど」。窓が開くと、そこにいたのは、何とパデュー本人。「フランク。サイモンには会ったわよね?」(2枚目の写真)。「ああ、もちろん。今日は」。「サイモン、こちらは継父のフランク」。サイモンは、マーカスが「またね」「大丈夫、ジャクソン?」と言っても、衝撃のあまり口もきけない状態。サイモンの心に去来するのは、これまで自分は騙されてきた。マーカスは、憎きパデューのスパイだったという怒りと、結構好きになっていたマーカスを失ったことへの喪失感だった。マーカスは、純粋にサイモンを応援していたのだが、今のサイモンの頭にはそうした可能性の入る余地はなかった。
  
  

小型の水上機でロイドと一緒に島に来たサイモンは、ゴムボート(もちろんモーター付き)で聖なる熊と遭った辺りの海岸に到着。サイモンが谷に下りて行くと、前と同じ白い熊が出迎えてくれる。あまりに近付いて、カメラのレンズを舐めるので(1枚目の写真)、レンズを綿棒で拭って検体が簡単に手に入る。熊が怖くて上の方で見ている博士に、サイモンは嬉しそうな目線を送る(2枚目の写真)。そして、熊に、「元気だった? 心配してたぞ」と話しかける。熊と別れてから、博士は、「手で 触ってたな。熊は、恐れを知らない。君もな。前と同じ熊だったからやったのか?」と訊く。「だって、白熊は、僕にとって聖者(saint)だから」。一方、マーカスは、サイモンが好きな「ザ・トゥルーズ」のバンクーバー公演時に、ある頼みごとを書いた手紙を発送していた。再び島に戻り、サイモンが「ロイド、見て。僕、森林保護活動家だ」と言って、ふざけて木に抱き付いてみせる。すると、手が変なものに触る。それは、「大陸製材社」と書かれた赤いテープだった。伐採許可の下りた木すべてに、この印が付けられている(3枚目の写真)。「CLLか。誰かが、伐採を許可したな」。「いつ?」。「分からん」。「どうして?」。「それが問題だ」。聖なる熊の生息地近くに危機が迫る。
  
  
  

バンクーバーに戻ったサイモンは、さっそくTV取材を受ける。レポーターの「邁進し続けるサイモン・ジャクソン、環境保護家のスーパー中学生が辺鄙なプリンセス・ロイヤル島から戻り、製材会社を厳しく糾弾しました」のイントロに続き、サイモンが「この島の環境は、国の宝、世界の宝で、世界最大の手つかずの温帯降雨林なのです。その木を切り倒せば、太古からの楽園が失われます。聖なる熊の生息地も」。そして、証拠の赤いCLLのテープと、聖なる熊の写真を見せる(1枚目の写真)。「彼は、授業のかたわら、猛烈な勢いで小学校や親睦団体で講演を行っています。『連合』は、今や、北米最大の環境保護運動となり、約50万人の若者が参加しています」。サイモンが続ける。「伐採には反対してません。責任ある伐採を求めています。そして、第5地区を聖域化し、特異な動物の生息地を保護しないなら、ボイコットを勧めます」(2枚目の写真)「皆さん、島の材木は買うのを止めましょう。大量の製品を扱うホームセンターも、是非ともご協力を。断固としたメッセージを送りましょう。太古の森は売り物じゃありません」。もはや、攻撃モードだ。15歳の少年がこれだけできるのは実に驚きだが、実際には13歳の少年がこれに近いことをやったのだ。
  
  

サイモンは、端末室でファーガスと言い争っている。「なあ、君は、ほんとに 理解しとるのか?」(1枚目の写真)。「ねえ、時間がないんだ。奴ら、木に標識を付けてる。聴いて。何か、僕に手伝えることは?」。「私は、仕事を山ほど抱えてるんだ」。「じゃあ、どのくらいかかるの?」。「処理を始めたとこだ。比較して、黒熊と区別するためのな」。サイモンは宣戦布告してしまったので、早く結果を と焦るが、正確な鑑定には時間がかかる。そこに、マーカスが顔を覗かせて微笑む。しかし、裏切られたと思い込んでいるサイモンはそれを無視。マーカスはがっかりして部屋を離れる(2枚目の写真)。ここで、先ほどTVのレポーターが言っていた「小学校での講演」のシーンが挿入される。講演と言っても、1つのクラスの生徒を前に行っているので(3枚目の写真)、効率は悪い。講演の最後に、「みんな、立ち上がって仲間になろう。そうすれば、森の熊を助けることができる。ボイコットに加わって」と呼びかける。小学生からは拍手が。大型のホームセンターの木材売り場で、子供連れの客が「すまんが、この材木、例の島のじゃないよな?」と店員に訊き、「例の熊ですね。大丈夫、他の産地です」と答える場面で、サイモンの運動が浸透していることが分かる。
  
  
  

しかし、学業以外のこうした行動は、サイモンに過重な負担となってのしかかる。結果として、スター先生の講義中、居眠りしてしまう(1枚目の写真)。「サイモン」と最初は優しく(2枚目の写真)、それでも起きないので、怒鳴られてようやく目覚める。「まさか、冬眠してないわよね?(You're not hibernate, are you?)」。熊にひっかけたユーモラスな言葉だ。この先生は、サイモンが気に入っているので、決してむげに責めたりはしない。「最近、学校の勉強に熱が入ってないわね?」。意地悪な男子学生が ざまみろとばかりにニヤリと笑う。スター先生はぐにフォローする。「だから、何か 勉強してもらうわよ、不足単位分だけ」。「ISU(任意テーマの自主勉強)ですか?」。そこで、サイモンの携帯の電話が鳴る。これには、先生もキレて、「何なの!」と注意する。「ロイドなんです」。「サイモン、相手が誰でも…」。「…ブラックバーン?」。「カナダ勲章の、ロイド・ブラックバーン?」。先生は、サイモンを教室から出してやる。廊下で電話に出ると、博士は、「いい知らせと、悪い知らせだ」と話し始める。「局長は、協議会を提案した。だが、あの島の将来には てんで無関心だ。お決まりの策略として、先住民対策とか環境観光や地域社会には配慮しとるがな」。次が悪い方。「現時点で局長は伐採を止めないし、パデューは協議会に無関心。伐採許可が出てるから敵なしだ」。サイモンは、「そんなのひどいよ。インチキだ。当事者が出ない協議会なんて意味がない」と憤る。博士のアドバイスは、「君は、ボイコットを続けろ。パデューの態度も、変わってくる。恐らくな」というものだった(3枚目の写真)。
  
  
  

ボイコットの進行とともに、サイモンを巡る環境は悪化していく。家には無言電話が入り、自宅のコンピュータには、いろいろなメールは入って来る。「ありがとう、サイモン。がんばれ!!」「凄いぞ、熊少年!」というものだけでなく、「バカは止めろ。泣き言にはうんざりだ」「お前は薄氷の上だ。せいぜい気をつけろ」「熊なんか、邪魔だ」「糞ったれ熊め。バカは止めろ。覚えてろ」と脅迫めいたものが多く混じるようになる(1・2枚目の写真)。サイモンが、署名活動をしていると、そこにマーカスが現れる。「ねえ、話し合いましょ。何を、怒ってるのよ?」。「君は、自分が誰か偽ってた」。「偽ってなんか ないわ」。「そうかな」。「いい、私は熊が心配だし、あんたが心配なの」。「君に、熊を語る資格はない。目的は、僕の失敗か… パパの手先か? だから、僕を利用した」。「私のパパじゃない。好きだったパパは、死んだわ。バカは言わないで。私は、誰も利用してない。私は自立した人間よ。自分で考えてる。あんたを、手伝いたいの。継父は認めてないけど。私、助けてあげたでしょ」。「ああ、でも、姿を見ない日も多かった。その日は、どこにいたんだい?」。怒って立ち去るマーカス。一度失った信頼を取り戻すのは難しい〔ここで、もう一度ぶり返すが、最初に指摘したように、サイモンはどうやってマーカスの電話番号を知ったのか? もし、名簿でも見たのなら、「マーカス・パデュー」と書いてあったはずで、その時点で何らかの疑いを抱いていいはすだ。電話番号はマーカスの家。ということはパデュー社長の家でもある。どこか釈然としない〕。
  
  

一方、その少し前、サイモンは念願の自動車免許を取得していた〔バンクーバーでは16歳以上〕。ある朝、サイモンは学校に遅刻しそうになり、「ねえ、パパ、車 借りていい?」と頼むが、言下に否定。「ダメだ、サイモン。まだ、免許 取り立てだろ?」。しかし、両親が慌しく家を出て行った後、テーブルの上を見ると、車の鍵が置いてある(1枚目の写真)。さっそくサイモンは車を拝借。しかし、激しい雨の中、森の中のハイウエイを運転していると、後ろからピックアップトラックが急接近してきて、威嚇するようにぴったりくっつき、遂には、抜きざまに車をぶつけてくる。サイモンの車は森に突っ込み、サイモンは脚を骨折(?)して病院に運ばれる〔ここでも、疑問が残る。自宅から中学に車で行くのに、森の中のハイウエイを延々と走る必要があるのか? それに、もしそんなに遠いのなら、こんな悪天候の中、両親はサイモンがどうやって中学に行けばいいと思ったのだろう?〕。病院には、急を聞いた両親が駆けつける(2枚目の写真)。父は、この事故を知る直前、TVで、伐採作業員の「こんな運動 バカげてる。凶暴な熊に対する全くのカン違いだ。俺たち すごく困ってる。このガキは、未来を破壊し…」という意見や、パデュー社長の「わが社は、いかなる協議にも参加しない。伐採許可は順法的に得たものだ。サイモン・ジャクソンは、この動物が造化の戯れでないと、証明できていない。そのくせ、製材業全体を非難している」との怒りの言葉、そしてレポーターの「状況は膠着状態に陥り、大陸製材社が協議会参加を拒む一方、サイモン・ジャクソンは自由な対話の場を求めており、他の関係者は無関心です。ジャクソン君は、無事に 乗り切れるか… プリンセス・ロイヤルで伐採が開始されると、森林問題は一触即発の事態となるでしょう」という分析を聞いていた。そんな中で、自分の息子が襲われる。そこで、「やり過ぎだ、サイモン。歯が立たない上に、敵をいっぱい作ってる。その結果がこれだ。サイモン、止めろ。問答無用だ」と強く命じる結果に。サイモンは、「熊が、僕を助けてくれたから、僕も助けたい。愛してるなら、僕を潰さないでよ」と必死で頼むが(3枚目の写真、額が赤いのは すり傷)、母は「命を、危険にさらしてるわ」と反対する。サイモン:「みんなが共感してくれて、誇らしかった」。母:「今でも、誇りに思ってるわ。あなたの してることは、正しい… よく 分かってるわ」。父:「これで、おしまいにしよう」。
  
  
  

3度目の、スター先生のクラス。先生は、「さて、ジャクソン君… 君は、若者にしては 珍しく… 凶暴な組織に勇気を持って行動してる…」とケガを讃えている。その時、またサイモンの携帯が鳴る。「サイモン、困るわね!」。「出てもいいですか? とても重要なんです」(1枚目の写真)。「サイモン、政治活動は立派だけど、今は…」。「ロバート・ケネデイJrなんです」。「何て言った?」。「ロバート・ケネデイJr、環境保護論者の」。「それ、ロバート・ケネデイJrから?」。「ええ。彼は…」。「何 のろのろしてるの。早く出なさい」。電話の内容は、①ボイコットが効いてCLLが島での伐採の中断に同意した、②CLLがが第5地区の協議会に参加する、という知らせだった(2枚目の写真)。生徒達からは(あの男子生徒を除き)拍手が巻き起こる。電話が終ると、直後にまた別の電話が。あきらめた先生が、「今度は、オプラかも〔有名なTVキャスター)〕」と言う。サイモンも電話を取って、「もしもし、オプラさん?」と悪乗りする。それは冗談で、電話はロイドからだった。博士に呼び出されて町に出かけたサイモンは、悪いニュースを聞かされる。「パデューは、協議会に出る」。「知ってるよ。凄いよね」。「君は招かれていない。役に立てなくて悪かった」。これは、意外な展開だった。しかも、ファーガスは、分析にあと2・3日はかかると言う。それでは間に合わない。業を煮やしたロイドが、「いつまで、後 2・3日なんだ」と言うと、「無理なものは、無理だ」という返事。結局、ロイド自らが研究所に督促に行くことにする。「それしか、私しにはできん」。
  
  
  

サイモンが、家で、両親に「カヤの外に置かれて何もできないうっぷん」をぶつけていると、自分のところに来た郵便物の宛先が気になって開封する。開けてみると、中から出て来たのは、大好きな「ザ・トゥルーズ」のチケットだった(1枚目の写真)。サイモンは大喜びで会場に向かう。サイモンの席は最前列。後ろに座っていた男性が声をかけてきて握手するが(2枚目の写真)、実はこの男性はサイモン・ジャクソン本人。そして、空いていた隣の席に座ったのはマーカスだった(3枚目の写真)。どんなに気に食わなくても、演奏をすっぽかすことはできない。
  
  
  

演奏が終ると、リード・ヴォーカルのColin MacDonaldが「みんな、聴いてくれてどうも ありがとう。今夜は、特に変化に挑戦する奴を紹介しよう。その名は、サイモン・ジャクソン」と発言する。さらに、マーカスを見て、「君が、マーカス? 俺たち、君の手紙を読んで とても感動した。俺たちも、聖なる熊を救いたいと思う」。そう言うと、ステージの背後に聖なる熊の大きな写真が表示される。「生息地の森林伐採から熊を救おうぜ。後は 本人に任せよう。みんな、サイモン・ジャクソンだ」。かくして、大歓声の元、サイモンはステージに立つことに(1枚目の写真)。サイモンは、「我々は、黙殺されない… 巨大産業にも。今、決定が下されようとしてる… 我々の将来の。我々への相談や同意すらなく。次を担うのは、我々の世代だ。権力者の自然資源への対応を、監視しないと。石油や木材目的の環境破壊を、監視しないと。我々の世代の声を聴くべきだ! 協議会にも意見を反映させよう。何の利権もない我々の声こそ、純粋な声だ。我々の声が、地球を、未来の世代を救うんだ! 沈黙を破ろう!」(2枚目の写真)。心をつかむ演説に大きな歓声が上がる。「僕は、期待してる… 我々が一丸となれば、聖なる熊を救えると! そして、地球を!」。再び大歓声。ここでColinがマイクを取り、「何が起きてるか、よく分かったろ? なぜ、俺たちはカヤの外なんだ?」。そこで、サイモンが「もう、後がない」と割り込む。この「後がない〔One day left〕」が標語となって、全員が、拳を振り上げ、「後がない!」とくり返し叫ぶ(3枚目の写真)。
  
  
  

若者たちの「後がない!」叫びは、社会運動となり、遂に環境局も折れた。協議会にサイモンの参加を認めたのだ(1枚目の写真)。会議の日となり、受付でネームプレートを受け取っていると、難しい顔をした年輩の男性が寄って来る。「やあ、君かね、話題の人は?」。「ええ、まあ」。男は、こっそり紙とペンを取り出すと、「サイン、もらえるか? 姪がね」と言う。サイモンがサインすると(2枚目の写真)、男は相好を崩して「ありがとう」。楽しいシーンなので、敢えて紹介した。実際に協議会が始まってみると、そこは単なる儀式の場だった。局長が「みなさん、話を蒸し返さないで。CLLによる第5地区の伐採は昨日決まりました。先に進みましょう」と発言する。これに驚いたのがサイモン。「第5地区? ダメだ。そんなこと。熊がいる。看過できない」。社長が「森林再生(Reforestation)…」と言い始めると、ただちに遮り「森林再生、そんなの愚の骨頂だ。全部切り倒せば表土が流されて岩だけが残る。常識だ。不毛の地だ。その間、熊はどうなる? 森が戻るまで、何百年も待つのか? 森林再生、そんなの嘘だ!」(3枚目の写真)。サイモンの口調はさらに攻撃的に。「こんなの、猿芝居だ(It's a damn deal.)。なぜ、僕を招いた? 宣伝? 偽装? よく、恥ずかしくないな?」。そして最後に、切り札の、「世界中で、ここにしかいない。遺伝学的に特異なんだ!」。しかし、社長の「証明してないじゃないか! できたら、戻って来るんだな!」の言葉には 引き下がるしかなかった。
  
  
  

そして、翌日。朝には、長官による協議結果の記者発表が行われる。会議室に協議メンバー、マスコミを集めた長官は、パデュー社長と並び立ち、話し始める。「包括的、かつ、闊達な議論を経て、大方の賛成が得られたことを報告します。伐採は、島の西海岸 第5地区で開始されます」。その時、やっとロイドがファーガスを連れて入ってくる。分析結果が出たのだ。報告書を渡されたサイモンは発言中の長官の前に出て行くと、報告書をかざしながら、「聖なる熊は、遺伝学的に特異です。造化の戯れでも、白変種でも、迷い込んだ北極熊でもありません。遺伝学的に特異で、危機に瀕しています」。そう言うと、「これが証拠です」と報告書を演台の上に置く(1枚目の写真)。社長は、「怪しげな報告書など読む気はない」と無視するが、サイモンは、「著者は、ファーガス・ダイオジェネス。Ph.D.…」。ここで、社長は、「未熟な研究者が出したに違いない」。ここで、ファーガスが前に出てくる。サイモンは、続ける「…あなたの局専属の遺伝子工学者です。2年前のサミットで遺伝学の報告書を作成。その前はバンクーバー環境会議で…」と経歴を述べる。これでは、信用せざるを得ない。博士は、「コモーデイ熊は、二重劣性遺伝子を持つ アメリカ黒熊の稀な亜種だと 遺伝子マップから分かります」とだけ述べる。専門家の意見は分かりにくいので、ロイドがサポートする。「簡潔な報告書です。島を破壊すれば熊は絶滅します」。サイモンが付け加える。「ロイド・ブラックバーン、カナダ勲章の」(2枚目の写真)。これだけ証拠が揃えば、結論は決まっていた。あちこちから拍手が沸き起こる(3枚目の写真)。サイモンは、仲直りしたマーカスと喜びを分かち合った。
  
  
  

西バンクーバー中学の大講堂は、溢れんばかりの人で埋め尽くされている。その中を、皆に賞賛されながら通路を進んで演壇に向かうサイモン(1枚目の写真)。壇上に上がったサイモンには、環境保護意識賞(Environment Protection Awareness Award)を授与される。そして、校長は、とっておきの演出として、タイム誌の表紙(「地球のヒーロー」)になったサイモンの大きな垂れ幕を出して見せる。その前で、マーカスはサイモンの胸にSBYC(聖なる熊若者連合)のバッジを付ける。「ずっと一緒よ、約束して」。何も言わず感極まって自分を見つめるサイモンの鼻に、マーカスは噛んでいたチューインガムを貼り付ける。これが契機となって、衆人環視の中でキスを交わすサイモンとマーカス(2枚目の写真)。13歳の実話のサイモンにこんな彼女があったとは思えないが、この映画の中でマーカスの果たした役割は大きい。鳴り止まない拍手に笑顔で答えるシーン(3枚目の写真)で映画は終る。
  
  
  

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